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小説もどき南米編

その2:

”コヨテーロ”とは、主に米国への不法入国を仲介する業者の事をそう呼んでいた。彼らは
エクアドルやボリビアなどから、一攫千金を夢見て米国へ不法入国しようとする貧困層を
集め、このような漁船に押し込めて中米まで輸送し、そこから陸路米国への不法入国を
手配する国際的な組織だった。この船はこの組織にチャーターされ、不法入国者を中米
まで輸送する途上で海難に遭ったのだった。
「コヨテーロねぇ・・・少し様子を見てみるか・・・セグンド、グアルダ・コスタ(沿岸
警備隊)との連絡は付いたのか?」
「シ、カピタン。エスメラルダスとトマコ両方から向かっているそうです。」
その頃、本船を視認した遭難船からはVHFの呼び出しチャンネルで必死の呼び出しがなさ
れていた。
「こちらは、エクアドルの漁船、”コアテペック2号”、機関室の火災で浸水している。早
く救助を頼む。」
「コアテペック2号、こちらは貨物船”カーボ・サンロレンソ”遭難信号は受信した。現在
沿岸警備隊が向かっている。それまで、本船はここに止まり、貴船を見守る。安心して
くれ。」
「沿岸警備隊なんか待ってたら船が沈んじまう。早く助けてくれ。」
「コアテペック2号、本船では乾舷が高すぎるし、船の大きさも違いすぎるから、直接接
舷できない。非常の場合は本船から救命筏を落とすから安心しろ。」
「そんなこと言わないで、なんとかしてくれよぅ。」
最後は泣き声に近かった。

しかし、二等航海士の言葉に嘘は無かった。5万トンを超える大型船が洋上で自力で他の
船に接舷など不可能な話だった。また、バルカーの乾舷は本当に高く、2/3積載の今でも
7m近くあった。縄ばしごでこの高さを上るのは容易ではない。
そんなやりとりがされている間に、船は接近し、遭難船から200mほどの距離を置いて、
エンジンを停止、漂泊を開始した。この頃には遭難船の後部は大分沈み込んでおり、人の
群れは船の前部に移っていた。しかし、このタイプの巻き網漁船の前部甲板は猫の額ほど
の広さしかない。このため、前部甲板に入りきれなかった人の群れがブリッジ上にまで
溢れ、鉄はしごで登る見張り台の上にまで人が溢れている状態だった。
漂泊を始めて二時間ほど経過した頃だった。遭難船で何か争乱が起きたらしく、人々が
大きく動き出すのが見えた。数発の銃声の後、数人が海に飛び込み、こちらに泳いで来る
のを視認した見張りが、携帯無線でブリッジへ警告を発した。警告を受けた船長は、すぐ
一等航海士に命じて、船体前後部にある放水銃に人を配置したが、これは念のため、と
いう範疇を出なかった。5万トンを超える大型船に素手で泳ぎ着いたとしても、船上に上
る手がかりどころか、船にしがみつく事すら不可能だった。鈎付きロープでも使ってよじ
登るなら別だろうが、素手ではまったくどうにもならない。結局、彼らは引き返さざるを
得なかった。
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コメント

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No title

どーも。
某所から辿ってきました。お邪魔してます。

現在、「足跡」操作中で、現在位置にいます。

IPチェックしたら当該国がわかると思いますが・・・。

この地の「南」で「キャンプ」してました。

この地の「北」で、上流の「不始末」を「利益」に変える「工作」です。w

では、また。

いずれ、世界の「どこか」でお会いする「予感」がしてます。再見。
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